世界結界の功罪について（１）

結局最後までがんばれたよ。
カント君もみんなも……ちょっと怪我しちゃってたけど無事でよかった。
でもさ、源平合戦が世界結界を巡る代理戦争だったって……。

……。
…………。

あ、マサっち。お疲れ。
怪我はどう？　だいじょーぶ？
そっかー。よかったー。

……え？
なーに？　元気ないって？
そうかな？　俺、そんな風に見えるの？

……ねえねえ、マサっち。
ちょっとだけでいいから聞いてくれる？

もしさ、昔の源平合戦で平家が勝ってたら、世界結界は無かったんだよね。
そうなったらどんな世界になってたかはわかんないけど……。
それでも昔の能力者さんや来訪者さんはなんとか頑張ってやっていこうとするんだよね？
そういう世界もありなんじゃないかなって……。

もしも、もしもの話だよ。
俺達がそのときの能力者の立場だったら、どうしたのかな。

ゴーストは悪いことするのが多いってのも知ってる。
悪いことしようって思ってないゴーストでも、ほとんどの場合に悲しい結果になるってのも知ってる。
だから全部封じ込めてしまおうっていう考え方は正しいって思う。
そうしたらこれからみんな安心して生きていけるんだもん。
できるならそうしたいよね。

だけどさ、そうなったらカント君はどうなっちゃうんだろう。
世界結界後の世界にはカント君は存在できなくなっちゃうんだよね。
さようならしないといけないんだよね。
それってすごく悲しいよ。
それとも、さようならしたことも悲しいってことも俺は忘れちゃうのかな。
カント君とのこと全部忘れちゃって、誰か好きな人ができてその人と笑って生きるのかな。
それはただ悲しいってことより酷いことだよ。
だって、忘れちゃった俺はそれまでの俺とは違う人だもん。
カント君がいないってことだけじゃなくて、カント君を大好きだった俺もいなくなっちゃうんだよ。
それで本当にいいって思うことができるのかな。

俺はね、カント君が大好き。
マサっちや三月ちゃんやゆずちゃんも大好き。
おとーさんやおかーさんやりょーちゃんも大好き。
銀誓館の友達も大好き。
まだ会ったことなくてもこれから友達になれる人、その人達も大好きだよ。
その人達がいる世界が大好き。
だから俺、みんなや世界を守りたいって思ってるよ。
だってみんなが大好きだもん。
で、そうやってみんなと一緒にいる自分のことも大好きなんだよ。

でもさ、そのみんなみんな違う人になっちゃう。
カント君もいない。
カント君を好きでいてくれる人もいない。
俺もいない。
そんな世界、俺は守りたいって思えないよ。

だからさ、昔の源平合戦の時に俺がいたら……俺はきっと……。
ううん！　平氏の人が全部正しいって訳じゃないって思うよ。
清盛さんは間違ってることもいっぱいしてると思う。
平氏が一番上で支配するって考え方は違うと思うんだ。
間違ってることだらけだよ。
だから平氏につくのは間違いだと思うよ。

でもさ、それでもカント君も俺もいるんだよ。
それで世界が無茶苦茶になっちゃっても、カント君はずっと俺の傍にいる。
もしその結果俺が死んじゃっても、カント君を大好きな俺は消えないんだよ。
だったら、そっちの方が何倍もいいって思うかもしれないんだ。

うん。馬鹿なこと言ってるよ。
自分でもそう思うもん。
ただ、ね……これからそういう選択をしなければならないこともあるかもしれないんだ。
銀誓館はゴーストから能力者と世界を守る場所だけど、守りたい世界はそれぞれ違うんだと思うよ。
もしそれぞれの世界がぶつかっちゃったらどうするんだろうなって……。

そっか……そうだよね……。
そんな選択しなくてすむのが一番だよね。
そうならないよう、俺達が頑張るんだもんね。
みんながいる世界がそんな悪い方に向かうわけないよね。

ごめんね、マサっち。
俺もうだいじょーぶ。
うん。心配してくれてありがと。